熊本保健科学大学副学長
九州大学名誉教授   赤池紀生

 小川長文先生に最初にお会いしたのは、全国療術研究財団九州ブロック佐賀地方研修会で生理学の講義をお引き受けした平成11年である。
 小川先生は現代の人々が、日本の伝統的療術が本来どのようなものであるかを全く知らず、また療術を標榜するあいまいで似て非なる施療が巷問で頻繁に行われ、療術の真価を低めている現況や、療術に触れた出版方法を目にする機会が殆んど無いことを憂慮され、療術の杜会的地位を高めるためにはこれからのと熟考され1年半にわたる研修会を開始された。
 それ以来私は研修会の講師を毎年担当することとなり、授業終了のたびに脳卒中で麻痺が残る私の左上下肢の治療を小川川先生から受けた。
 この治療はそれまで私が経験したいわゆるリハビリとは全く異質で、私の体全体を一つの生命体としてとらえ、部分的に低下した機能を回復させようとするもので、大変有効であると実感した。
 また、白分が受けている治療について生理学の立場から種々の疑問を小川先生に投げかけ、そのお答えから、私は日本における真の伝統的療術の素晴らしさに気がついた
 さらに四季折・、長崎・佐賀の山野を先生と共に訪ね・薬草の観察や採取をしたり、野母岬の波洗う海岸では黒光りする小石を用いた療術の自然療法に関する広くて深い見識を拝聴させて頂く幾会にもめぐまれた。
 こうして私は、日本伝統の療術は西洋医学の欠点を補う重要な医療技術である
と確信するに至った、そこで日本の真の療術についての現代人の理解を深め、ひいては現代人の健康づくりに貢献する必要があるとの思いから、療術に関する教科書を執筆されるよう小川先生に強くお勧めし、誕生したのが本書である。
 本書の内容は基礎理論から詳細な臨床の実技におよぶもので、先人から伝えられてきた知恵・知識・経験と小川長文先生の療術師としての情熱と人生観で溢れている。
私は本書に二つの役割を期待する。
 ひとつは本書を通読された方々に療術とは存在価値のある医療技術の一つであることを知って頂くことである。
もうひとつは療術師を目指す人々に真の療術師としての姿勢を学んで頂くことで、本書が施療法を自分自身のものにする入門書となることを期待する。
 本書は初版であり、これからも本書が小川先生の後継者をはじめ多くの療術師の方々により臨床の場で検証され、より良い改訂版になることを願ってやまない。
故、小川長文先生の御仏前にご報告申し上げる次第です。
平成21年1月
  (療術 あとがきより)


1、突然の痛み
私は1967年、銀行に勤務中、突然立つことも歩くこともできなくなり、
大学病院での受診では脊柱管狭窄症椎間板ヘルニアと診断され、
手術するよう奨められた。
しかし、知人が同じ病名で手術し、結果が思わしくなく再手術した
挙句に短命で終わったこともあり手術をしないで治癒する方法
はないものかと全国の病院や民間療法の施療を受けた。 
だが、良好な結果を得ることができなかった。
ある人の紹介でカイロプラクティックの治療を受け、
また、このときからカイロプラクティックの勉強も始めたが、
これも思うような結果が出なかった。

2、東京大学医学部での特別研修モデルになって
その頃東京大学医学部薬理学教室では、筋肉と神経の研究がされ、
私は筋肉関係の障害者のモデルとして特別診断を受けることになった。
この診断の結果、疾病の原因は、1953年スポーツにより腰を痛め、
この時の病院の手当が痛めた腰のみの対処療法であり、関連
した筋肉の手当をしていなかった為、年数を経て発病したも
のであることが判明した。

3、療術との出会い
その後、カイロプラクティックの対処療法では効果が薄いことを理解し
筋肉と神経を勉強し、療術を知ることができた。
白然のエネルギーが人体にどのような影響を与えるのか
そして神経と筋肉との関係はどのようにあるのかについて
1984年のテリー・ウイリアムズ博士(英国)のハンド・トリ
ートメントの公開講座が東京で行なわれた際、受講した私は非常に感銘を受けた。

4、ストレッチ療法
これに加えて東大.浅見俊雄教授のスポーツ医学による筋アンバランスと神経.筋伸
展の生理学的なストレッチの研修を契機として、そしてその
後長年に亘る修練により、危険性が無く効果的な療法、特に
症状に対応したストレッチ療法を修得した。加えて、鹿児島
県鐵灸専門学校元講師・徳光先生の協力により経穴、
経絡と筋肉との関係・筋と疾患との相関について共同研究し
これを療術に取り入れ予防医学的に適用して効果を上げ、今日に至っている。

5、病理学の権威:赤池紀生博士との出会い
しかし・代替医療として療術が医学的に立証され、更に実技的により効果を上げるためには日々の研鑚が重要であり、療術の実技についての理論的根拠となる生理学的な勉強が大説である。療術の臨床でのあり方や療法の実技に関する本著
を初めて世間に送り出すにあたり、九州大学名誉教授(現熊
本保健科学大学副学長)赤池紀生博士より本分野に関する特
別なご指導をいただいた。また、これまでに多くの方々のご
指導を賜りそのご恩に報いるためにも、私は、これからも療
術による予防医学に貢献する人材を育て、杜会に奉仕するこ
とを念頭に日々精進するつもりである。
小川長文